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Day.31-2002.08.13 Day.30 へもどる
 ツアー最大の目玉“バングル・バングル”を後にすると、キンバリーツアーもある意味“消化試合”になる。この日は未知の地“ノーザン・テリトリー”へ向かい、ひたすら移動となった。


 乾いた道を進み続け、これまたカラカラに乾いた公園で昼食を摂る事になった。
 
 キンバリーを堪能するために耐えなければいけない点が2つ。“ハエ”と“強風”である。

 オーストラリアとハエは、なぜか有名な取り合わせだ。ゴールドコーストのお土産屋さんでも見かけることがあるが、幅広のつばにヒモが何本も垂れ下がり、その先に小さなコルクがついている帽子がある。“
アウトバックの旅人アイテム”として認識されているいかにも“お土産風”なこの帽子、実は非常に実用的なのだ。

 オーストラリアのハエは、大きい。そして、しつこい。さらに、しぶとい。

ノーザン・テリトリーと西オーストラリアの州境付近にあった湖。
渇いた大地とは対照的な、豊かな水の風景だ


 ツアー中、昼食は屋外でサンドイッチを食べる事がほとんどだが、サザエさんやハイジのピクニックシーンで見るような、“いただきま〜す!”なんていう優雅なランチは期待できない。自分のサンドイッチを作り、口を開けたその瞬間から戦いは始まるのだ。片手でサンドイッチを持ち、もう片方の手でハエを払いながら、更にまとわりつくハエをよけるため、頭を振りながら食事は進む。

 こんな時とても便利なのが、“コルク付きハット”なのである。旅人の必須アイテム、麦わら帽子をかぶっていたキヨ君と猛、“コルク付きにするべきだったんちゃうん?”とぼやきながら、サンドイッチにぱくついていた。

 この日最初の緊急事態は、この後すぐ起こった。

 食後に片づけをしていた菜津子、目に鋭い痛みを感じた。 
 キンバリー第2の壁、強風に舞い上げられたゴミが左目に入ったのだ。間の悪いことに、その左目にだけハードレンズを入れている彼女、この痛みに我慢できずコンタクトをはずしてしまった。

 キンバリーの強風は、買ったばかりのコンタクトレンズと菜津子の幸せをさらっていった。。。

 経験のある方には、コンタクトをなくした時のショックをおわかり頂けるだろう。
 あんなに小さなガラスなのに、あんなに軽い物なのに、高い。
 そして、世の中的にも結構コンタクト紛失率は高いようだ。街中ではいつくばっている人は結構いるし、高校生の頃には、コンタクトを落とした彼女のために学校の廊下を通行止めにした“伝説の男”もいた。

 コンタクトをなくす時、どんなパターンが一番悲しいか。
 菜津子の経験で言うと、洗面所の排水口に吸い込まれていくそれを、なす術もなく見送ってしまった時。或いは、落としたコンタクトを見つけられず、周りの友達にもこれ以上迷惑をかけられないと、“もう、あきらめるよ。ありがとうね。”と言って歩き出した瞬間、自分の靴のかかと方向からの小さな“パキッ”という音を聞いてしまった時。10年以上経っても忘れられない、上位2つである。ちなみに、これがお酒を飲んでいる最中の出来事である場合、酔いはサーッという音を立てて一瞬で醒め、その後、周りの“かわいそう・・・”という空気を振り払うために、“今日は飲んじゃう♪”モードへと切り替わらざるを得ない。
 
 この時、全ては一瞬のうちに起こり、彼女は飛んでいく小さなレンズを見送ることも出来なかった。そして後に残ったのは、“ここでコンタクトはずしたら、どうなるかわかるじゃろう。何しよるん・・・”という、猛の呆れ気味のお言葉。。

 この日以来、菜津子はいつお別れが来ても悲しみ度数の少ない、使い捨てレンズ使用者になった。



 昼食後、私達は“ミニ・バングルバングル”と呼ばれる場所に立ち寄った。ここは・・・何のひねりもなく、“バングル・バングルの超縮小版”だった。同じ地域にあるものだけあって、オレンジ色と黒色の層からなる岩も同じである。侵食の形態に特徴があったり、規模が大きければ、もっと注目を集めるだろうに。本当の名前がついているにもかかわらず、“ミニ”バングル・バングルと呼ばれてしまう山の姿に、兄弟より少し遅く小学校へ上がったがために“○○さんの弟/妹”と呼ばれることの多かった末っ子3人組は、ほんの少し共感を覚えた。。。

“ミニ”とは言っても十分大きい、“ミニ・バングルバングル”



 そんな中、この日2回目の緊急事態発生。

 昼食のサンドイッチもたっぷり食べ、のどが渇いた、暑い暑いと水分を取りすぎていた猛とキヨ君。自然の営みに逆らえない状況に陥ってしまったのだ。当然近くにトイレがあるわけもなく、悩みぬいた2人はミニ・バングルバングルに“ごめんなさい”と声をかけ、自分達の足跡を残した。。。

ごめんなさい。二人は茂みに進んでいく。。。


 バスは午後、州境をまたぎ、私達は“ノーザン・テリトリー(北部準州)”に足を踏み入れた。

 あたりが暗くなり始めた午後遅く、私達は本日のキャンプ地に到着した。ここに至るまで、
ベヴンにしては珍しくキャンプ地を決めかねていたようだった。通常、誰かがキャンプをした場所には、必ずと言って火を焚いた痕がある。そこはつまり安全な場所を意味するわけで、今までのブッシュキャンプでも火を焚いた痕跡のある場所を使用していたのだ。この日、夕方近くからベヴンは何箇所かのキャンプ地の様子を見ていたが、結局辺りが見渡せるぎりぎりの時間になってある場所で車を止めた。
ブッシュにおける3種の神器(スコップ、トイレットペーパー、トーチ)を
手に大地へ旅立つ、勇ましい後姿である。


 この夜は、最後の宿泊にして最後のブッシュキャンプ。地面はちょっとゴツゴツしていて石が多いようだった。道を隔てた向こう側に野生の牛の群れが見えたけれど、特に心配はないということだったので、牛の姿を少しは気にしながらも、私達はブッシュキャンプならではの様子を写真に収めたりしながら、最後の夜を過ごした。

猛の寝姿。意外に繊細な彼は、枕なしでは寝られない。
洋服を枕代わりにし、枕元にはお水を欠かさない。

 寝ている間、スワッグの下から背中のツボを刺激していたのが
牛のフンであることを知ったのは、翌朝辺りが明るくなってからのことだった・・・。
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