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Day.36-2002.08.18 |
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この日の集合は朝5時50分。集合場所に行った私達をショックが襲った。
何、このバス?
何、この人の多さ!!
そこに停まっていたバスは大型バス。そして50人は下らないのではないかという人が乗り込んでいくではないか。
“少人数のツアーだって書いてあったよね?” と、虚しい確認をする3人組。
今回のツアーは、大陸の中心“アリス・スプリングス”までの移動を兼ねている。アリス・スプリングス到着まで数々の有名所を回っていくので、ツアーの人気が高いのは当然だと思われる。しかし、、、
とは言っても、文句を言ったところで何が変わるわけでもないし、と、私達はバスに乗り込んだ。この頃になると、噂では散々耳にした"オーストラリアではあきらめが肝心"という言葉が、実感として少しずつわかるようになってきていた。
ちなみに、在豪歴5年が経った最近では、"それでもあきらめられない!!!"と腹を立てることも多くなるが、10年以上住んでいる友人は、そんな私達に涼しい顔で"仕方ないのよ〜。みんないい加減なんだから〜。"と言ってのける。早くあの域に達したいものである。
ダーウィンを出発した私達は、お昼前にキャサリン渓谷近辺のキャンプ場に到着した。今回のツアーは参加者も多いので、ツアーガイドも男性と女性の2人。今までのツアーでは当たり前だった自己紹介もなく、正にバスツアーに参加している感じだ。キャンプ地でお昼を食べた後、いよいよキャサリン渓谷に向かった。
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キャサリン川は渓谷の間にゆったりと流れている |
キャサリン渓谷(Katherine Gorge)は、見どころの多いノーザン・テリトリーの中でも存在感たっぷりの場所だ。正式名称は"ニトミルク国立公園(Nitmiluk
National Park)"である。
これまでのツアーでは、"渓谷"と名のつく場所では"歩く"と"泳ぐ"が基本だった。しかし、今回はその基本セットに加え"クルーズ"と"カヌー"が加わった。"加わった"といっても現実はそんなに甘くない。勿論、お金を払ってカヌーかクルージングのどちらかも選べる、ということなのだが。
大所帯のツアー参加者、次々と自分のやりたい事を決め支払いを済ませていく。ここで私達は、前日に引き続きまたもや誤った選択をしてしまったのだ。今回の"敗因"は、"キャサリン渓谷の調査不足"と"偏った考え"とでも言おうか。結果的に、私達は今までどおり"歩いて" "泳いだ"のだから。
どうも私達は、"一回試せばよし"としてしまう傾向にあるらしい。
まず、クルーズを選ばなかった理由は、前回のツアーで体験済みだったから。クルーズはどちらかというと"静"の側面が強い為に、キヨ君や猛があまりググっと惹かれるものではないらしい。そして菜津子にとっては"クルーズ=遊覧船=船酔い"の図式が成り立ち、もともと気乗りはしない。クルーズという選択肢は、あっさりと消去されていた。
そして"カヌー"である。
カヌーに乗る機会というのは、なかなかやってこないと思う。私達も、今までの人生で乗った経験はなかった。更に言うならば、未だに乗ったことがない。ならば何故?と思われるかもしれない。
その答えは後(Day49)に私達が参加する予定の"ラフティング"だった。 勿論、カヌーとラフティングは全く別のものだし、実際にラフティングを経験して、少なくともその違いは容易に想像がついた。しかしこの時点で、"ラフティングをやるから、カヌーはいいか・・・"という、今考えても信じられないほどの思考回路が働き、私達はカヌーを選択しなかったのである。もちろん、その浅はかな考えだけではなく、予算的にも厳しかったのだが。。。
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地と緑と水と。力強い自然がどこまでも続く。 |
"歩いて泳ぐ"ことだけを選択した私達は、申し込んだ人たちの手続きが終わるのを待つ間、ぼんやりと眼下の川を眺めていた。
と、そこに、優雅に川を旅するカヌーの姿が・・・
・・・・・・・・・おもしろそう、じゃない?
同じ事を考えた3人は、そのままツアーガイドの所へ。
"あのー、やっぱりカヌーに申し込みたいんだけど。"
"えっっ!!! 今更何言ってんの!
もう無理よ!!!"
女性のツアーガイドが、なぜか必要以上にヒステリックな声色で私達を怒鳴りつけた。
・・・あの、、、私達、あなたのお客さんですよね?確か???
思わず確認してしまいたくなるような言い方である。
そう、オーストラリアで頻繁に起こる理不尽な出来事。
"お客さんの方が立場が弱い"
"観光大国"とか"ホスピタリティー(いわゆるサービス業)先進国"と評される(自称?)ことのあるオーストラリアであるが、その実態は、首をかしげたくなる事も多い。もちろん、ホスピタリティーの何たるかを教える学校や、職場における研修ではとても素晴らしいことが語られているのだが、現場ではびっくりするような経験を度々するのも事実である。
今回私達が受けた仕打ちは、世の中で起こっていることに比べれば大したことのない部類に入るのだと思われる。第一"途中で気が変わった"私達に非があるのも事実だし。。。
そうは言っても、落ち込むものは落ち込むのだ。
手続きを済ませた一行は、選択した内容に従って散らばっていった。ここで、なぜかツアーガイドの姿が"カヌー組"と共に消えた・・・。"ガイドさんは年がら年中ここに来ているのだし、カヌーなんてもう乗り飽きてるよね?安全確保の為に付き添っているだけ"と自分達に言い聞かせながらも、 "あの"ヒステリックな言い方を思い出し、余計な憶測をする3人組。
カヌーに乗れなかったのは残念だけど、目の前には荒々しい自然が待っている。気を取り直して、私達はウォーキング・コースを歩き始めた。
国立公園であるキャサリン渓谷には、きちんと遊歩道がついている。壮大な渓谷なので半日で全部歩ききるのは無理だが、案内に沿ってコースを選択すれば楽しい散策ができるのだ。
歩き始めた私達を襲った、衝撃的な情報。
私達が進もうと思っていたウォーキングコースが、閉鎖されている!
原因は、ブッシュ・ファイヤー(bushfire)。大規模な山火事であった。
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ブッシュファイヤーの痕。木々が燃え、地面が黒く焦げている。 |
オーストラリアは、日本に比べかなり気候が乾燥している。その上乾季ともなると山火事の発生率は高く、被害の範囲は時として驚くほど広範囲に及ぶ。私達が訪れた日には既に鎮火していたが、安全確保のため閉鎖されていたのだ。
また、オーストラリアにやられた。。。
そう、"ブッシュファイアーがあったことを知らされていたはずのツアーガイドがその事を皆に通知さえしていれば、私達だって最初からカヌーを選んだのに"である。
ひょっとして、リスニング力で劣る私達が聞き逃したのかとも思ったが、同じようにウォーキングコースを歩き始めて戻ってくる人の中には、英語圏からの参加者もいた。
"ツイてない度"もここまでになると、怒る気力もなくなるというものである。
いきなり出鼻をくじかれた私達。何となくそのまま歩く気になれず、向かった先は川岸。もしかしたら船着場かもしれないけど、パッと見た感じは川と言うよりも池のようになっていて、遊泳できる場所のようだ。私達は早速川に飛び込んだ。私達と同じ運命をたどっていた"ツイていない"参加者達も、この遊泳場に癒されているご様子だ。大人たちはみんな無邪気に、水遊びに興じていた。
参加者の中に、ドイツから来ている2人組の男性がいた。彼らは・・・真偽の程はわからないけれども、恐らく10人に聞いたら9人はその特別な関係を指摘するだろうと思われるくらい・・・・とても仲が良かった。ただ、とても微笑ましい感じのじゃれ方なので、周りの人に自然に"仲がいいのね〜"と言われる位、感じの良いカップルだった。ただ、、、その2人がふざけ合ってはしゃぎながら共に川に飛び込んだ時は、さすがに見ている方が照れてしまったけど。
そんな穏やかな時間を過ごしていた私達の頭に、突然イヤ〜な図式が現れた。
ノーザン・テリトリー → 川 → 淡水 → フレッシュウォーター・・・
フレッシュウォーター?
↓
フレッシュウォーター・クロコダイル!!!!!
この川にワニがいないとは限らないのだ。いるとしても、人を襲う可能性の低い"フレッシュウォーター・クロコダイル"だけれども、あくまでも"可能性が低い"だけであって襲わない訳ではないのだ。
この瞬間から、私達はそれまで深い深い水をゆったりと泳いでいたのを、"飛び込み大会"へと遊び方を変更した。一人一人、思い思いの方法で威勢良く飛び込むのだが、その後は必死に手足を動かし、岸に戻ってくるのだ。
滑稽といえばこっけいであるが、なかなかスリルのある時間を過ごせた。
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勢いよく飛び込む! |
水で冷えた体を温めるため、私達は短いウォーキングコースに出かけることにした。
ここに至るまで、数多くの渓谷を訪ねてきた。そしてその多くが"下って水辺に到着"というコースだったのだが、今回はどちらかと言えば"渓谷を登る"イメージ。常に川を眼下に眺めながら、山の背を歩くように上に登っていく。
のんびりと優雅に浮かぶカヌーを見ながらのウォーキングは、私達にあの苦い瞬間を思い出させずにいられなかったけど、空の青さと川の深い青、渇いた岩場を眺めながら歩くと言うのはなかなか良いものだった。ブッシュファイヤーの焼け跡も垣間見ることができたが、その一体はやはり焦げ臭い匂いが立ち込めていた。
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岩場に腰掛け、川を望む。川面に浮かぶのは、“あこがれの”カヌー。 |
キャンプ地に戻ってから、私達には今までのように分担する仕事のようなものがほとんどなかった。自分達の使用したお皿を洗うというのが唯一の仕事で、あとは皆思い思いに過ごしている。
寝る場所は当然テントの中。前回と同じく、恵まれた環境であった。
スワッグに別れを告げてから4日。私達の"スワッグ熱"は、ジリジリと温度を上げ始めていた。
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